【第1回】AI時代に、オープンソースはどう進化するのか— Drupal創設者 Dries Buytaert 氏インタビュー —
AI時代に、オープンソースはどう進化するのか
ーDrupal創設者 Dries Buytaert 氏インタビュー 1 ー
2026年、世界中で愛されるDrupalは誕生から25周年という輝かしい節目を迎えました。この記念すべきアニバーサリーイヤーに合わせ、昨秋のDrupalCon Naraで語られたリーダーたちの貴重なメッセージを特別連載としてお届けします。
四半世紀にわたりWebの進化を支えてきたDrupalですが、今まさに「次の25年」に向けた新たな進化の瀬戸際に立っています。これまでの長い歴史の中でも類を見ない大きな変革の時に、私たちは何を指針とすべきでしょうか。
なぜ今、このインタビューなのか
AIが急速に進化し、WebやCMSの在り方そのものが問われる時代に入りました。生成AIの登場は、単なる技術トレンドではなく、Webの構造や運用、そして「誰がどのようにWebを作るのか」という前提を大きく揺さぶっています。
Drupalは約25年にわたり進化を続けてきたオープンソースCMSです。その創設者であるDries Buytaert氏は、いま訪れているAIの波をどのように捉え、Drupalをどこへ導こうとしているのでしょうか。本記事では、DrupalCon Nara 2025の文脈を踏まえつつ、Dries氏の言葉をもとに「AI時代のオープンソース」について紐解いていきます。
※本記事では、Drupal創設者であるDries Buytaert氏のコメント部分に斜体(イタリック)加工を施しています。
Dreis氏とDXTimes記者(DrupalCon Nara 2025 会場にて)
25年続くDrupal、次の10年で何が起きるのか
Dries氏は、Drupalのこれまでを振り返りながら、今後10年を見据えたビジョンをこう語ります。
Drupalが誕生した当時、Googleはまだ非公開企業で、モバイルインターネットも存在していませんでした。その後、Webは何度も大きな転換点を迎えてきましたが、Dries氏は「AIは、これまで以上に大きな変革になる可能性がある」と指摘します。
「いま私が最も注力しているのは、Drupalが“AIの嵐”を乗り越え、AIファーストの世界でも価値あるCMSであり続けることです。この取り組みだけで、正直これから10年は忙しくなるでしょう」
AIは非常に速いスピードで進化していますが、Dries氏は多くの組織が本格的にAIを活用するのは、5〜7年先になるとも見ています。その長い時間軸の中で、DrupalとAIをどう結びつけるかが、最大のチャンスであり、同時に最大の課題だと語ります。
AIは脅威か、それともチャンスか
AIについて、オープンソースコミュニティでは「怖い存在」と捉えられることも少なくありません。この問いに対し、Dries氏は率直な感情を明かします。
「正直に言うと、私自身もAIは怖いです(笑)。でも同時に、とてもワクワクしています」
その理由は、AIがDrupalを「より多くの人にとって使いやすい存在」に変える可能性を秘めているからです。Drupalは高い柔軟性と拡張性を持つ一方で、学習コストが高いという課題を長年抱えてきました。
Dries氏は、AIがその壁を下げ、より多くの人がオープンソースでWebサイトを構築できる未来を描いています。
「AIは、Drupalの採用を広げ、何百万人もの人たちがオープンソースでWebを作れるようにする力を持っています。怖さもありますが、同時に非常に強力なイネーブラーでもあるのです」
Drupalが持つ「AI時代に向いた強み」
Dries氏は、DrupalにはAI時代において特に相性の良い特性があると語ります。
- 構造化されたコンテンツ
- バージョン管理・リビジョン管理
- 厳密な権限管理やワークフロー
これらはすべて、AIと組み合わせることで真価を発揮する要素です。
「Drupalの技術的な強みは、AIファーストの世界にとても適しています。AIによって、これらの強みをさらに増幅させることができるのです」
だからこそDries氏は、AIを恐れて距離を取るのではなく、「価値観と原則に基づきながら、AIとともに進化する」姿勢が重要だと強調します。
日本企業が懸念する「AIとセキュリティ」への答え
日本企業は、新しい技術の導入に慎重だと言われます。クラウドの普及が他国より遅れた背景には、強いセキュリティ意識がありました。AIについても同様の懸念がある中で、Drupalはどう向き合うのでしょうか。
Dries氏は、日本企業と対話を重ねる中で感じた共通点をこう語ります。
「日本の企業も、世界中の企業と同じ目標を持っています。限られたリソースでより多くの成果を出し、より良い顧客体験を提供したい、という点です」
その上で、Drupal AIの設計思想として紹介されたのが「抽象化レイヤー(abstraction layer)」です。
データを外に出さないAIという選択
- Drupalでは、特定のAIベンダーに依存しない仕組みを用意しています。
- 利用するAIプロバイダを用途ごとに選択可能
- 自社サーバー上で動くローカルLLMの利用も可能
個人情報や顧客データを外部クラウドに送らずにAIを活用できる
これにより、日本企業が特に重視する「データ主権」や「情報管理」の要件にも対応できます。
人間が最終判断するAI
さらにDrupalでは、AIの提案や変更を可視化し、必ず人間が確認・承認できる仕組みを重視しています。
「私たちは、AIが勝手にすべてを決める世界を望んでいません。最終的には、人間が責任を持って判断する。そのためのガバナンスと透明性を大切にしています」
オープンソースだからこそ、AIと向き合える
Dries氏の言葉から一貫して伝わってくるのは、「オープンソースの価値観」です。
ブラックボックス化しがちなAI技術に対し、透明性を保ち、選択肢をユーザーに委ねる。その姿勢こそが、DrupalがAI時代においても信頼され続ける理由なのかもしれません。
「私たちは、原則や価値観に基づいてAIと向き合いたい。ただ便利だから使うのではなく、慎重に、しかし前向きに進化していくことが大切です」
まとめ|AI時代におけるオープンソースの可能性
AIは、オープンソースにとって脅威であると同時に、大きな可能性でもあります。Drupalはその最前線で、「人を中心に据えたAI活用」を模索しています。
次回【第2回】では、なぜDrupalが企業や行政といったエンタープライズ領域で選ばれ続けているのか、その理由を「セキュリティ」「ガバナンス」「長期運用」という観点から掘り下げていきます。