AI Native変革と日本のデジタルの未来 — 特別対談:フィル・ナイト氏(SAFe/Scaled Agile)× 代表 竹内(Genero)

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SAFe(Scaled Agile)のシニアリーダーであるフィル氏と、ジェネロ株式会社 代表取締役・竹内大志による対談を実現しました。

グローバルにおけるAI活用の潮流や「AI Native」への変革、EDGEフレームワークの可能性、日本特有のデジタル課題について幅広く議論しました。日本のDX推進に求められる視点と、これからのリーダーに求められる意思決定のヒントに迫ります。

特別対談:フィル(SAFe/Scaled Agile)× 竹内(Genero)

弊社代表 竹内(左)とSAFe/Scaled Agile社 フィル・ナイト氏 

フィル(SAFe/Scaled Agile)

SAFe/Scaled Agile社 フィル・ナイト氏

第1部:グローバルトレンド — なぜ「AI Native」なのか?

竹内:

SAI社(Scaled Agile, Inc.)は最近、日本市場で「AI Native」クラスを発表・開始しました。SAFeは長年、Fortune 500企業を支援する主要機関でした。なぜ今、AI Nativeという新しい取り組みを導入するのですか?グローバル市場にどのような変化が起きているのでしょうか?

フィル:

いくつかの理由があります。世界のアジャイル導入状況を見ると、国によって成熟度が異なります。スカンジナビアは米国外で最初にアジャイルを導入し、その後SAFeも最初に導入した地域です。現在、その市場はかなり成熟しており、世界全体で約250万人がトレーニングを受けています。一部の地域では、大規模なトレーニング継続の機会が減少しつつあります。

一方で、成長分野もあります。東南アジアは安定的に成長し、オーストラリアも伸びています。政府機関や製造業といった、アジャイル導入に遅れていた分野も成長しています。

しかし今、AIがすべての注目を集めています。私が関わったすべての会話でAIが話題になっています。

竹内: 

組織がAI導入で直面している問題とは何ですか?

フィル:

日本に関して言えば、他国と比べて特別に進んでいるわけでも、遅れているわけでもありません。AI活用に関する課題は、世界中で共通しています。

多くの組織がAIに投資していますが、十分なリターンを得られていないのが現状です。いわゆる「投資」とは、従業員にCopilotのライセンスを付与し、オンライントレーニングを提供することで、AI活用を促す取り組みを指すケースが多く見られます。

しかし実際には、多くの人がAIを高度な検索ツールのように使っているにとどまっています。高度なプロンプトを活用している場合でも、AIをナレッジベースとして扱っているケースがほとんどです。

一方で、エージェンティックAIは、こうした状況を大きく変える可能性を持つゲームチェンジャーです。

竹内: 

具体的な例を教えていただけますか?

フィル:

もちろんです。私のチームのマーケティング担当の女性が、公開トレーニングカレンダーに掲載されている約1,600のコースを確認し、価格を不当に引き下げているパートナーを特定する必要がありました。なお、彼女には技術的なスキルはありません。

手作業で行えば数週間かかる作業です。しかし彼女は、基礎的なAIトレーニングを受けたばかりにもかかわらず、「エージェントで対応できます」と言いました。そして翌朝には、主要な違反者、優良なパートナー、平均価格などを整理したスプレッドシートが完成していたのです。

ウェブサイトにアクセスし、パートナーサイトを巡回して価格を取得し、自動的にデータを整理するエージェントのワークフローを自ら構築していました。

もう一つの例です。PMIの30名を対象に半日のワークショップを実施しました。あるプロジェクトマネージャーは、毎週月曜日の午前中をプロジェクトデータの収集に費やし、午後にその内容をPowerPointにまとめて経営層に提出していました。これは彼の業務時間の約20%を占めていました。

しかし、1時間以内にワークフローを構築したことで、現在ではその作業は数分で完了しています。月曜の朝にコーヒーを飲んでいる間に自動化が実行され、週の20%の時間を取り戻すことができたのです。

フィル:

竹内さんはインドでのAI Nativeトレーニングに参加されましたが、個人的にどのような気づきがありましたか?

竹内:

実は、そのトレーニングは同行したエンジニア以上に、私自身に大きな変化をもたらしました。最初に学んだのは、マネージングディレクターであり営業責任者である私こそが、AIを活用して組織全体をオーケストレーションすべき立場にあるということです。それこそが「AI Native」の本質だと感じました。この気づきは非常に大きなものでした。

フィル:

まさにその通りです。これはマインドセットの問題です。AI Nativeとは、AIがインターネットと同じように当たり前の存在になることを意味します。「インターネットを使いました」とわざわざ言わないのと同じです。AIもまた、仕事のあらゆる場面で自然に使われるパートナーであるべきなのです。

私たちは市場に大きなギャップがあると認識しました。ツールや90分程度のオンライントレーニングは提供されているものの、実際に生産性向上につながっているケースはごくわずかです。多くの人が、AIを真のパートナーとして捉えられていないのです。

 

第2部:EDGEフレームワーク

竹内:

「EDGE」とは何か、またそれが組織文化にどのように影響するのか、簡単にご説明いただけますか?

フィル: 

「EDGE」は、今回の技術革命がこれまでのあらゆる変革と異なる理由を示す頭字語です。

  • E — Exponential(指数関数的): 携帯電話が1億ユーザーに到達するまでに16年、インターネットは7年を要しましたが、ChatGPTはわずか2か月でした。これが、現在の変化のスピードを象徴しています。
     
  • D — Disruptive(破壊的): 従来の役割や仕事は急速に変化しています。弁護士、翻訳者、開発者など、あらゆる職業が再定義されつつあります。将来的には、アジャイルチームは7〜9人の開発者ではなく、2人の開発者とAIエージェントで構成され、2週間ではなく2日単位で開発が進むようになるかもしれません。
     
  • G — Generative(生成的): AIは、これまで存在しなかったものを自ら生み出します。指示を与えれば、その実現方法まで自律的に考えます。一方で、そのプロセスがブラックボックス化し、どのように結果に至ったのか把握しにくいという課題も生じます。これをどのように監査・統制するかが重要な論点です。
     
  • E — Emergent(創発的): AIの振る舞いは本質的に予測が難しく、何が起こるかを完全にコントロールすることはできません。
     

私たちが伝えたいのは、これまでにないスピードと不確実性の中で、前例のない変化がすでに起きているということです。そしてこの流れは一過性のものではありません。組織はこの現実を前提として対応していく必要があります。

 

第3部:日本特有の課題

竹内:

日本では依然として多くの企業が従来型のガバナンスモデルで運営されており、アジャイルプラクティスの導入は限定的です。いわゆる「PoC(概念実証)の墓場」と呼ばれる問題も指摘されていますが、日本特有の課題についてどのように見ていますか?

フィル:

まず明確にしておきたいのは、必ずしもSAFeそのものを導入する必要はありませんが、アジャイルの考え方は不可欠だということです。
実験を行うのであれば、素早く失敗し、そこから学び、イテレーションを回し続ける。そしてコラボレーションとコミュニケーションを前提に進める必要があります。

AI変革を18か月のプロジェクトとして扱うことはできません。AIは18か月ではなく、18日単位で進化していくからです。

日本に目を向けると、アジャイル導入はまだ発展途上にあります。ただし未成熟というよりは、「これから本格的に広がっていく段階」と言えるでしょう。すでに一部の企業はグローバル競争を見据え、アジャイルへの転換を実行し始めています。着実な前進です。

一方で、多くの組織には依然として階層的な文化が残っています。この変革には時間がかかりますが、これは他国でも見られた共通のパターンです。いくつかの企業が成功事例を示し始めると、それを契機に一気に普及が進みます。

竹内: 

現状の課題は、AIとアジャイルが切り離されて考えられている点だと感じています。AIの導入は求められている一方で、それを実現するためにアジャイルが不可欠であるという認識が十分に浸透していません。

フィル: 

AIは本質的に不確実であり、絶えず進化するため、組織は固定された事前計画に頼るのではなく、迅速なテスト、学習、適応を可能にするアジャイルな働き方を必要とします。アジャイルなアプローチがなければ、AIの取り組みはパイロット段階で停滞し、ガバナンスとリスク管理に苦労し、日々の業務フローに定着することができません。

 

第4部:日本のリーダーへのメッセージ

竹内:

フィルさん、日本のDXリーダーへのメッセージをお願いします。

フィル: 

先日、あるリーダーと話しました。「まだ準備ができていない、不安がある、組織再編を待つべきかもしれない」そう話していました。
しかし、私のメッセージはシンプルです。待ってはいけません。

今起きているのは、まさに大きな変革の波です。ムスタファ・スレイマンとマイケル・バスカーによる『The Coming Wave』という素晴らしい書籍がありますが、そこで語られている“これから来る波”は、私の考えではすでに到来しているのです。

これは「インターネットを使わない」と言うのと同じです。AIはすでに存在し、今後なくなることはありません。

だからこそ、受け入れ、先手を打つ必要があります。そうしなければ、競合他社がAIを活用し、差は一気に広がっていくでしょう。

繰り返しになりますが、待ってはいけません。

竹内: 

アジャイルについても、正しく理解されていない部分がありますね。

フィル: 

はい。アジャイルに対して、「ルールがない」「厳密さがない」「計画性がない」といった誤解を持たれていることがあります。しかし実際には、その逆です。

アジャイルは、従来のアプローチ以上に厳密であり、計画的であり、コラボレーションを重視します。従来の方法では、一見すべてが順調に進んでいるように見えても、ある時点で突然問題が顕在化し、手遅れになることがあります。

アジャイルでは、進めながら検証し、必要に応じて方向転換し、継続的に改善していきます。そのプロセス全体を通じて、密なコミュニケーションと連携が保たれます。私たちは、その実践と理解を支援することができます。

 

本対談を振り返って

本インタビューを通じて明らかになったのは、「AI Native」への移行は単なる技術導入ではなく、組織全体のマインドセットと働き方の変革であるという点です。世界中の企業がAI活用に投資する一方で、多くはその価値を十分に引き出せておらず、従来の延長線上でAIを“効率化ツール”として扱うに留まっています。しかし、エージェンティックAIの登場により、人とAIが協働し業務そのものを再設計する段階へと進んでいます。

この変化の本質を示すのが「EDGE(Exponential/Disruptive/Generative/Emergent)」であり、これまでにないスピードと不確実性の中で、企業には迅速な適応が求められています。特に日本においては、PoC止まりの取り組みや従来型ガバナンスの影響により、AIとアジャイルの本質的な統合が進んでいないという課題が浮き彫りになりました。

AI変革を成功させるためには、「なぜ取り組むのか」「何を実現したいのか」という本質的な問いから出発し、アジャイルの原則に基づいた継続的な実験と学習を組織に組み込むことが不可欠です。そして何より、リーダー自身がAIを前提とした意思決定とオーケストレーションを担う存在へと進化する必要があります。

AIはすでに不可逆的な潮流であり、もはや「待つ」という選択肢はありません。変化を受け入れ、主体的に活用する企業こそが、これからの競争優位を確立していくでしょう。

 

ジェネロ株式会社について

クライアントのビジネス課題に対して戦略的なアプローチと専門知識を提供し、ビジネスプロセスの最適化・組織改革・デジタル変革の推進など、さまざまな分野でのコンサルティングサービスを展開しています。

戦略策定から人材育成までを支援するとともに、最先端のAI技術を組織の意思決定や日々の業務システムへ深く組み込むことで、激動の時代においても止まることなく価値を生み続け、迅速な決断を下せる強靭な組織づくりを一気通貫で支援しています。

 

会社概要

社名: ジェネロ株式会社(英文表記:Genero Inc.)

代表者: 代表取締役 竹内 大志

所在地: 東京都大田区山王2丁目5-6 SANNO BRIDGE

設立: 2003年4月

事業内容: AI導入支援、アジャイル組織変革コンサルティング、デジタルマーケティング支援、オープンソースシステムの開発・運用

Webサイト:https://genero.jp/