垂直農法
垂直農法というのはバーティカル・ファーミング(vertical farming)の訳で、土の畑で行う太古からの農業ではなく、水耕栽培の装置を縦方向に積み上げて行う農業です。
段々畑などを除くと、畑の面積を広げる場合、水平方向に拡張するのに対して、水耕栽培は垂直方向に伸長することを踏まえたネーミングでしょう。
屋内で装置を積み上げる方法のほかに、ビルなどの階層や傾斜面を利用して、実際に垂直的に陽光を浴びせた農法を指すこともあるようで、今のところ両方の意味で使われている用語のようです。
どちらにせよ、都市部で農作物を作ることができるという点が注目されています。食物の輸送にはさまざまなコストがかかります。輸送、貯蔵にはエネルギーが必要です。国内の農地と農産物の消費地の距離だけではなくて、国際的にも食料の産地と消費地の距離を縮めようという動きが活発化していて、フード・マイレージとして移動距離を「見える化」しようという動きが各国で広がってきています。
都市の建物の中で農産物を作って同じ都市に住む人々が消費すればフード・マイレージは非常に短くて済みます。産地と消費地が近ければ、フードロスが減ります。輸送や貯蔵の期間中に傷んでしまうリスクが減るからです。
照明、水質、気温、水温などなどの環境をIoT技術で管理するのが一般的ですから、もちろん電気代がかかってエネルギーを使います。けれども、土の畑と違って天気の影響は受けません。
農業に適さない地方や、気候の厳しい地域、あるいは、長雨や台風、干ばつなどが起こった時期であっても農産物を作ることができます。ドイツなどでは、フードキャンパスと呼んで、ベルリンやハンブルグに技術革新の拠点を設けています。
さらに、水、栄養素、光、熱、エネルギー、その他のリソースの投入量や産出量をトラッキングできるということは、AIの力を借りて最少の投入コストで産出を最大化することも可能ということです。すでに垂直農場のデジタルツインを作る試みがあるようです。
ただし、実際には外部の気候に左右されないようにするために、エネルギーコストが高くなり、その結果、生産される農作物も割高になります。
そうすると、小麦やトウモロコシ、ジャガイモなどの主食の材料として安価に提供するべき農作物にあ不向きということになります。
結果的にハーブですとかサラダ用のグリーン野菜など高く売れるものを栽培しなければ設備投資を正当化できません。
また、照明や空調でのエネルギー消費が不可欠ということは、垂直農業に特化した施設を作るのではなく、生活空間との共存も視野に入れる必要がありそうです。つまり、人が使う明かりや暖房、冷房を、場合によっては熱交換なども使って有効に相互利用する必要があるということかも知れません。
火星に取り残された主人公が自力でジャガイモを育てて生き延びたように、地球でも自宅で作物を育てながら生活することが普通になるのかもしれません。
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