ファッションのデジタル・マーケティング
電子商取引(Eコマース)の初期には、ファッションについてはさまざまな議論があったそうです。
衣料品の通信販売は、いろいろ存在していました。カタログ通販が主体で、消費者はモデルさんが着ている洋服などを見て、サイズを指定して注文していました。また、テレビショッピングでも同じようにモデルさんが着こなしているアパレル製品を視聴者が電話などで注文していました。今もその状況は余り変わっていません。
しかし、インターネットでの販売が始まった頃、ファッション製品の販売は難しいのではないかという意見があったとか。
それは主に初期のWWWではアクセス回線が48kbps程度の低速で、精細な画像をブラウザに表示することが難しかったからではないでしょうか。今であればサムネイルと呼ばれる縮小画像くらいの写真では、通販カタログの写真に太刀打ちできません。
その後、ブロードバンド通信が普及して、精細な写真や動画での表現が可能になり、状況は大きく変わりました。
また、サイズの表示だけでは自分にフィットするかどうか事前に分からないとか、素材は実際に触れてみないと判断できないとか、いろいろ難しいことが指摘されて、初期のアパレルのネット通販は苦戦を強いられていたようです。
仮想現実モデリング言語(VRML)というWebで三次元の画像を表示する技術を使って、マウスでドラッグして画像を上下左右に動かせるようにすることで、アパレルをさまざまな角度から見ることができるようにしていたサイトもあったとか。
ファッションのデジタル・マーケティングでは、ブログが重要だそうです。
今ではvlog(動画ブログ)も盛んに使われますし、欧米の場合はポッドキャストも使われます。良質なコンテンツの有無が、ブランド認知を高め、ブランド価値を高めるために重要となります。
合わせて適切なSEOを行い、コンテンツが顧客にどのようにリーチしているか、逆から見れば潜在顧客がどのようなジャーニーを経てコンテンツを見つけているかをデータで把握し、改善し、強化します。
特にインフルエンサーによる画像系と動画系のSNSを活用したマーケティングは特に重要で、この領域ではブランドとインフルエンサーの間にWin-Winの関係が築かれています。特に若い人々には伝統的なスタイルの検索エンジン最適化(SEO)は不十分です。検索窓に文字のキーワードを打ち込んで情報を探す世代は今や比較的上の世代ということになっています。
COVID-19もアパレルのデジタル・マーケティングに影響を与えました。消費者は長い時間、自宅で過ごすようになり、ネットを使う時間も大幅に増えました。Web会議に自宅から参加する機会が増えて、シャツやトップスは人目に触れますし、画面の一部には自分の姿が映るのも見えますから、売上を伸ばした半面、画面に入らないボトムズやシューズの売上は鈍化しました。
売れるトップスも通勤を前提にしていたころよりも見栄えだけでなく快適さが重要視されるようになっているようです。また、マスクもファッションの一部と捉えられるようになってきました。これは世界的な傾向のようです。
通勤の機会が減ると、四季の変化による気温の寒暖の影響も減って、夏服や冬服といった区分がぼやけて、一年を通して室内で快適な触感が好まれます。
いわゆる「密」を避けるために開催が延期されていたファッションショーが、バーチャルで実施されるようになったのも今年の特徴です。
デザイナーもSNSを通じて直接、消費者との接点を持つようになり、消費者側からすれば鮮度の高い生の情報に直接的に接する機会が増えました。誰もがインフルエンサーになれるような時代になったとも言えそうです。
従来、アパレルは物理的なチャネルとデジタルのチャネル(合わせてフィジタル)の組み合わせが成熟した業界のひとつで、デジタルや旧来メディア(テレビや雑誌、交通広告など)で情報に接するだけではなく、リアルの店舗にも多くの顧客が訪れて実際に素材の感触やサイズを確かめて購入する消費者が大勢います。
デジタルとの組み合わせは店舗の在庫にも大きな影響を与えます。宅配の通販ではなく、最寄の実店舗でのピックアップという形の販売も増えていますので、店舗の倉庫に色違いやさまざまなサイズを用意しなくても、顧客を取り逃がすケースは下がっています。
デジタルの活用は接触の機会を減らすことにも繋がりますから、パンデミックにさらされた人々も、また、パンデミック後に慎重に行動するようになるであろう人々にも歓迎されるチャネルであり続けそうです。
今後はバーチャル試着室や、すでに実用化されていますがスマホとAIを使った自動採寸技術などで、過去からの課題は次々に解決していくことでしょう。
<参考情報>