公共交通機関のデジタル化
世界の公共交通機関、特に鉄道やバスもコロナの影響を強く受けています。そもそも外出禁止とか自粛ということになればバスや電車に乗る人は激減します。
やがて感染症のリスクが低くなってきても、公共交通機関で見ず知らずの人たちと「濃厚接触」することはおおくの人が避けようとするはずです。乗客は事前に混雑状況が気になるはず。日本でも、バスの混雑状態をバスロケ(バスロケーションシステム)に表示するニーズが高まっています。AI(人工知能)カメラが乗降客を数えて自動的にクラウドに混雑状況をアップする仕組みはすでに存在します。
さて、世界中で5G(第5世代移動通信システム)に注目が集まっています。非常に多くの機器が超低遅延で超高速の無線通信を行えるようになる技術ですから、社会や生活を一変させる可能性を持っているためです。
エンターテイメントや遠隔医療などへの応用が注目を集めますが、公共交通機関へのインパクトも大きそう。
もともと公共システムというのは海に浮かぶ氷山のように、見えている部分の下にさまざまなインフラが隠れています。電車で言えば、切符を買って、改札を通って、ホームで電車を待って乗り込み、座席に座って移動するというのが乗客の体験ですが、それを支えているのは単に2本のレールの上を電気で走る列車だけではなく、券売機の決済システムから駅の案内板、自動改札機、信号機などなど、さまざまなシステムが同時並行で動いて、乗客の旅を支えています。それぞれのシステムを統括したり使用したりする部門は電鉄会社のさまざまな組織に分散していて、社外から利用されるものもあります。
公共交通機関に求められることには、快適さや時間の正確さ、移動時間の短さなどいろいろありますけれども、もっとも大切なことは安全です。インフラの情報システムは、ISMSの認証基準JIS Q 27001:2014(ISO/IEC 27001:2013)の認定を受けて、システムを国際基準に保つ必要があるでしょう。
5Gに対応したIoTネットワークが発展していけば、各国で運行している膨大な数の電車やバスのリアルタイムな追跡が可能になります。もちろんすでに日本の都市部の鉄道のほとんどは運行管理システムを導入していますし、バスにはバス・ロケーション・システムが導入されていて、今どこを走っているかなどのトラッキングはできていますが、これがIoTで進化して、多くの電車やバスにも適用されるようになれば、人やモノの移動をリアルタイムに追いかけられます。
応用範囲はそれだけではありません。列車内の混雑状況、気温や湿度、空気の状態など、健康に直結する情報が初めて遠隔で確認できるようになるでしょう。
自分が乗っている長い列車のどの車両が混雑していて、どの車両が空いているかを調べるためには、今であれば連結器を超えて前車両を歩いてチェックするしかありません。スマートフォンの画面でこれが確認できれば、混雑を避けて移動する人が現れて、平準化が図られます。立ったまま移動する苦労から解放される人も増えるでしょう。
欧米では、近所の知り合いなどと乗用車に相乗りして、鉄道の駅の近くに駐車して、電車で都会の勤務地まで移動するライドシェアやパーク&ライドの利用が増えています。5G時代のアプリは、きっと通勤客を適切な時刻に適切な場所に導いてくれるでしょう。そのためのアプリは、検索、マッチング、支払いまでを統合したものになると思います。また、電車での移動中には新しいエンターテイメントがスマートフォンを通じて提供されるようになるはずです。
バスの運転にもバスに搭載したカメラでリアビューを確認したり、後退時の壁との距離をソナーで確認したり、車線を逸脱したり前方の車と接近し過ぎたら警告音を出したりといったシステムがどんどん取り入れられていて、ただでさえ忙しくいろいろな計器やミラーをチェックしたり操作しながら運転している運転士をサポートする技術がぞくぞくと生まれています。
また、発売は2021年に延期されてしまいましたが、電動大型トラックTesla Semiにもさまざまな安全システムが組み込まれていて、長年、とても辛い仕事だった長距離トラック輸送のドライバーに安全を届けようとしています。
<参考情報>