デジタルおもちゃ
人形やぬいぐるみ、ロボットの模型に話しかける子供たちにとって、実際に会話ができるようになることは、「くまのプーさん」よりもずっとずっと前から世界中の子供たちの夢でした。AIと音声認識とクラウド、Wi-FiやBluetoothなどによって夢を叶えてくれる時代がとうとう訪れました。
バービー人形は長らく女の子のお気に入りでしたが、Hello Barbieは、玩具メーカー大手マテルとサンフランシスコの人工知能企業ToyTalkの提携でできた会話のできるお人形です。
値段は80ドル以上と高額ですが、マイク、スピーカー、LEDを備えていて、ベルトの部分のボタンを押すと作業し、LEDが点灯して音声認識がONになったことを子供に知らせます。
両親は、Hello BarbieをWi-Fi経由でインターネットに、つまりはクラウドにつないでアカウントを作成します。アカウントがあることで、Barbieは、つまりはクラウド側のAIは、それまでに子供とお話ししたことを「憶えて」いるので、同じ質問を何度も繰り返すことはないですし、子供の好きなものについて語ってくれたりします。
Hello Barbieは、子供の夢を叶えると同時に両親の不安も煽りました。ひとつはプライバシーの問題です。子供が好きなもの、欲しいものをどんどんクラウドにアップロードすれば、マーケティングデータとしては強力です。可能性としてですが、もしも悪用されたらAIは、言葉巧みに欲しいおもちゃやお菓子を親にねだるようにそそのかすかも知れません。そこまで悪くなくても、大量にデータを集めれば、高く転売することが可能になります。
「お父さんが好きな言葉な何?」などという会話から、アカウント名やパスワードのヒントを渡してしまう可能性もあります。誕生日くらいは自然に話題にできますし、お母さんの旧姓といった本人確認で使われがちな情報を引き出される可能性だってないわけではありません。
バービー人形以外にも、さまざまなハイテク玩具が家庭に「侵入」し始めています。盗聴器や隠しカメラは、住んでいる人に悟られないようにこっそり設置して、さまざまな目的で外部から室内の「情報」を抜き取るわけですが、Wi-Fiでクラウドにつながるロボットには、マイクとカメラが堂々と装備されています。特定に企業とか国にこっそり情報が送られるというだけでなく、窃盗や詐欺の直接の材料になる可能性だってないわけではありません。
提供するおもちゃメーカーや人工知能提供会社にそうした悪意がなくても、セキュリティ上の欠点があれば、カメラやマイクが悪い人に乗っ取られるかも知れません。
しかし、そうした心配がありながらも、デジタル技術を活用した玩具は増え続けることでしょう。自宅の部屋がマリオカートのレース場になるなんて、大人にだってワクワクすることに違いありません。
映画やテレビの中にでてきた人や動物が、ホログラムの映像になって3Dで自分の部屋に出現して、歌ったり踊ったり、さらには自分と話をしてくれる技術を拒否する子供はいないでしょうし、安価に手に入るのであれば、親は買い与えることでしょう。
また、販路としてもデジタルが鍵になることは間違いありません。パンデミックの影響もあるでしょうが、人々はリアルの店舗に足を運ぶよりも、デジタルで商品情報を調べ、ECサイトで購入する傾向を強めています。おもちゃのメーカー側としても、店舗でのプロモーションよりもデジタルでの展開にますます比重を移していくことでしょう。
そして、何よりも「利用者」である子供たちは完全にデジタル時代の子供たちです。AIスピーカーが音楽をかけてくれたり、カーナビがしゃべることは何の不思議でもなく、街角の情報キオスクから情報を引き出し、ARのポケモンを苦もなく集めています。
時を戻すことはできないので、消費者の側としてセキュリティやプライバシーに関するリスクを認識して、安心して遊べる環境を用意する責任があるということなのでしょう。
<参考資料>