企業財務経理のDX
企業のさまざまな業務にRPAやAI(人工知能)技術が取り入れられていますが、財務経理部門は中でも最も恩恵をこうむる部門と言えそうです。
経理の仕事はこれまで、どちらかというと今と過去の記録を正確に残すことでした。膨大な請求書を受け取って、決められた期限までに支払いを行って、領収書を受領するというそれぞれの段階で記録を残します。自社から他社に請求書を発出すれば、期限までに支払いがなされたかを確認し、まだであれば督促をして、未払い金として計上し、後日、その支払いが行われたら、消込という作業を行うのですが、これらの各段階でも必ず記録を残します。こうした記録が1か月分集まれば月次の決算、3か月分で四半期の決算、1年分で会計年度の決算を行いますが、それぞれ綿密な照合作業が必要です。
従来は、手入力したExcelなどを駆使してさまざまな記録を残し、マクロを動作させていろいろな計算をして、その結果を会計システムに手作業で入力するケースが多かったと思います。こうした業務を実行するには、ある程度の会計の知識が必要で、チェックを行うと言っても単に2つの表を照合するだけではなくて、内容を理解していなければなりません。
しかも、この仕事は毎日、毎週、特に毎月毎月の反復です。
反復的な作業には、RPAがうってつけです。人が作業をすれば、作業をしながらさまざまな確認も並行してできるので、高度な作業が可能ですが、実際には作業の大部分は単純な転記だったりします。ExcelのマクロやRPAにとって、単調な反復作業はいわば得意分野。人は単純な作業を長時間続けると疲れてミスを起こしてしまいますが、ロボットは疲れ知らず。愚痴も言わずに同じペースで作業を終わらせてくれます。
単調作業が好きな人もいるはずですが、苦痛に感じる人にとってはこうした反復作業から解放されれば満足度が上がるに違いありません。
平凡なタスクを自動化することによって得られる生産性の向上は、経理部門、財務部門の幹部にとってDXの最大のメリットの1つです。
財務経理部門のDXで自動化と並んで期待されているのは、人工知能(AI)の活用による高度な分析と予測です。
デジタル技術によりグローバル化した専門分野の高度な知識を一元化して、分析担当者がデータの操作に割く時間をAIにゆだね、分析そのものにフォーカスすることで、企業の財務経理は会社の過去と今ではなく、未来に目を向ける貴重な時間を得ることができます。レポートを作成して経営幹部に見せるための準備には通常、膨大な時間がかかりますし、せっかく集めた情報もすぐに陳腐化するので、もし、せっかく集めた情報とその分析結果が経営に活用されなければ、多くの場合、情報を集める時間も分析するための時間も無駄になってしまいます。高度なスキルを有する人材が行った作業の成果が水の泡になることは、ぜひとも避けなければなりません。
デジタルやクラウドを重要視し、データのセキュリティについて思いを巡らす時間が増えれば、ガバナンスに対する配慮も徹底しますし、コンプライアンス上の問題が潜んでいれば、AIが察知して財務担当役員に知らせてくれるようにもなります。
現実には、後段で触れたような未来志向のDXよりも、まずは生産性と従業員エクスペリエンスを向上させるための自動化が、財務部門、経理部門のDXの大きな恩恵になると思われますが、その先には確実にAIや機械学習による高度な分析と予測が企業の価値を大きく左右することになりそうです。
<参考情報>