農業とデジタル技術
世界の人口は増加中で、世界各国の農業は気候変動や自然環境に悪い影響を与えているにも関わらず、増加する需要に応えていく必要があります。
そんな中で注目を集めているのはE-農業(e-agriculture)です。
デジタル技術を農林畜産業に取り込む試みは以前からいろいろありました。ただし、いくつかの理由でなかなか普及してこなかったようです。
例えば、畑や山林のある場所には、電力が供給されていない可能性があります。そのためたとえば水田の水の温度を計測する装置を設置するなら、電源の確保が必要になります。電力会社が電線を任意の場所まで延長してくれればいいのですが、大した需要もないのに電柱を立てたり地中に電力ケーブルを埋めるのは大変です。広大な水田地帯にいくつもいくつも水温センサーや気温を測る温度計や風力計を設置するとなると、こうしたインフラへの投資が最初の大きなネックになります。
太陽電池で発電して、夜や曇天の日のためにバッテリーに電力を蓄えておくことはできますが、風雨にさらされる場所、しかも水田であれば水を張った土壌の上に立てるので、ソーラー発電の設備は大きくて頑丈なものになります。
また、田園地帯や森林、山間部にはモバイルの電波が届いていない場合が多くあります。
IoTソリューションには、何らかの無線通信が必要ですが、LTEや3Gの電波が来ていないエリアであれば、新たに基地局を建設して、そこまでは地上ネットワークを延伸していくか、固定網の終端部分にWi-Fiその他の無線アクセスポイントを設置することになります。ここでも給電方法を心配しなければなりません。
そうであったとしても、土壌の水分や成分、温度、気温、水温、光、湿度、風などのデータは農業を効率的に進める上で極めて重要です。土が乾いていないか確かめるために、住居からはるばる農地へ赴く手間や時間を短縮したいというニーズは必ずあるはずです。
低速広域通信(LPWA)、低軌道衛星、環境発電(エネルギーハーベスティング)など、さまざまな技術を利用することが可能になり、スマート農業が各国で花開こうとしているようです。センサーとカメラがさまざまな有益な情報を集めています。気温の変化や土壌の検査結果に基づいて最適な対応をするにはAI(人工知能)が役立ちます。現場の状況は、定点観測用に設置したカメラからも、遠隔操縦するドローンから集めることができます。
牛などを放牧する際に、首輪などに無線モジュールを取り付けておけば、トラッキングが可能になります。今、どこにいるのか分かるだけでなく、食事のパターンなど健康管理に使ったり、盗難を察知するのにも活用できます。
耕運機などの農機の無人化も進んでいます。畑を耕したり、農薬や水を撒いたり、収穫するのに機械を使うことは古くからおこなわています。操作の難しい機械を操縦する人を雇うと高くつきますから無人運転への投資には経済的な魅力があります。また、無人運転の機器は人が操作するものよりも軽量コンパクトになる傾向があるようで、このことも歓迎される要因のひとつになっているようです。
効率的な灌漑は、水資源の有効利用に直結します。世界中では水を潤沢に使える地域の方が珍しいのだとか。干ばつは気候変動の激しい昨今、世界各地で必ず発生し、森林火災を発生させたり、氷河を溶かしたり。かと思えば各地で豪雨に見舞われ河川が氾濫します。
できた農産物にもデジタルが活用されます。生鮮食品の流通や貯蔵をトラッキングしたり、最適な輸送ルートを計算することは、大地の恵みを無駄にしない上で重要なことです。果物などが害虫に食べられていないかといったことも、AIカメラが弁別できるようになります。
そして、世界中でデータの蓄積が始まって、これを分析するようになれば、大きな付加価値が生まれて、農業は洗練されていくことでしょう。
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