デジタルと小売業

日本人は現金での支払いや受取りを好むからキャッシュレスなんて普及するはずがない、高齢者がQRコード払いなんか使わないと言われていたのは何年も前のことではありません。そもそも高齢者がスマホなんか使うはずはないと。

もちろん多くの高齢者がスマートフォンを使いこなしておられますし、交通系その他のICカードに二か月に一度、年金が支給されるとチャージして日々の買い物をキャッシュレスで済ましておられる高齢者が増えてきました。大量の広告とポイント付与キャンペーンによって認知度が上がり、新型コロナウイルス感染症の拡がりで非接触を求める人が増えたこともキャッシュレスの普及を後押ししました。店舗に入るときも出るときも、体温を測って、手を消毒しているのですから、硬貨や紙幣を直接触りたくないと思う人が多くて当然です。

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ポイント制は相当古くからあって、スタンプカードや切手のようなシールが使われたりしていましたが、ただでさえお財布の中にはお金のほかにも複数のクレジットカード、銀行のカード、図書館の図書カード、交通系ICカード、病院やクリニックの診察券などなどがいっぱい入っているのですから、薬局やパン屋さん、サンドイッチ屋さんがくれるポイントカードを常に持ち歩くのは大変です。スマホ決済のポイントならば、物理的なカードを持ち歩かなくても貯めることが可能なので、こうしたことも普及を促進しているのかも知れません。

買い方も大きく変わってきています。以前から、書店で立ち読みをしてオンラインで購入するとか、家電量販店で詳しく説明を聞いたり試しに使ってみたりして、結局はネットで最安値を探してECで購入するといったことが行われてきていて、小売業界にとっては大きな問題になっていました。

COVID-19の影響で、店舗に居る時間、つまり、不特定多数の見知らぬ人々と同じ空間に居る時間を短くしたいという欲求も生まれて、BOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)を選ぶ消費者が世界各国で増加しているようです。

宅配に対応していたネットスーパーでもそうですが、オンラインで販売するためには在庫管理システムとECサイトの連携が不可欠です。

ネットで購入してくれていれば、顧客の購買履歴を店舗側が把握することが容易になります。同じことはポイントカードなどでも実現できますが、長く同じお店でデジタル購入していたら、あまり押しつけがましくない方法で、そろそろ買い替えの時期というタイミングを見計らって広告を見せたり、割引クーポンを送ったりすることもできるようになります。特に日用品は安い店が選ばれてしまって、顧客を小売店が引き留めておくことが難しいものなので、こうしたパーソナライズしたお勧めが可能になって、次も同じ店で買ってくれるようになれば、小売り側にも大きなメリットがあります。

顧客側がプライバシーを侵害されていると受け取っては元も子もありませんが、Webサイトで品物を選んでくれた人については、アクセス解析の自動化によって、効果的なクロスセルやアップセルが可能になります。

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小売業と顧客の接点は1つではありません。ネットとリアルの接点(チャネル)があればオムニチャネルと呼ぶのですが、デジタルではWebサイト(ECサイト)だけでなくスマホのアプリも接点になりますし、他社のサイト(例えばニュースサイト)なども接点になります。リアル店舗の中にデジタルサイネージが置かれるのは一般化しつつありますし、中には顔認証で顧客の属性を推測して適切なコンテンツを表示するものもあります。

店舗の経営でも発注から仕入れた商品のQRコードやRFIDなどを使った在庫管理、店内の商品陳列の最適化、トレーサビリティなど、デジタルを使うことでこれまで難しかったことを楽にできるようになってきています。販売員その他の勤怠管理にも、面倒なシフト組みにもITが活用されています。従業員やアルバイトの人々への給与の支払いにもネットが使われ、現金の手渡しや口座振込みに伴う手間が減り、チェックも簡単になっています。

<参考情報>

Digital Retail Transformation Trends 2020-2021

Digital Transformation in Retail

DIGITAL TRANSFORMATION IN THE RETAIL INDUSTRY: EMPOWERING IT TO DELIVER STRATEGIC VALUE TO BUSINESS

Retail Digital Transformation: 6 Inspiring Examples for CIOs