ミラノのDX

イタリアは、新型コロナウイルス感染症が世界的に猛威をふるった初期の段階で医療崩壊を起こし、連日、大変な様子が世界中に報じられた中心地的な存在でした。危機的な状況の中、ミラノは2016年以来進めてきたデジタルトランスフォーメーションにより、コロナとの闘いにおいていくつかの強力な武器を持つことができていたようです。

イタリア

2016年に立てたプランは、インフラストラクチャ整備、サービス拡張、デジタル教育強化、デジタルスキル向上の4本柱から成っており、COVID-19により自宅待機が求められる中、ミラノ市の自治体職員7,000人以上がテレワークに対応が可能だったとのこと。

 

「デジタル・シチズン・フォルダー」という住民向けサービスもDX成功事例の1つで、自治体の住民向けサービス提供、公共料金の支払い、各種免許の申請・交付がオンラインで可能となっていたため、ロックダウン期間中も自宅から申請その他が可能でした。

 

市の情報担当のモットーは「モバイルファースト」と「ワンクリック」で、ユーザである市民はPCではなくスマートフォンから直接、サービスにアクセスすることが可能です。開発に当たっては、簡素化が最重要視されていたそうです。また、日本のLINEに当たるWhatAppチャットボットを立ち上げ、一般的な質問には即座に回答することが可能となりました。

 

しかし、行政側がDXを進めても、市民が新しい技術を信頼して使ってくれなければ宝の持ちぐされになってしまいます。4本柱の1つにデジタル教育が入っているのはこのためで、市は民間のパートナーや他の公共機関と協力して市民向けの大規模なデジタル教育プロジェクトをスタートさせています。

 

また、サムスンが100名以上の電話オペレータをそろえてコールセンター業務を受託しており、高齢者などデジタル技術の利用に支援が必要な人々に対して電話サポートを提供していましたが、パンデミックの最中にはトラフィックが通常の10倍にも達したそうです。

 

さらに、女子学生をターゲットにSTEM(科学、技術、工学、数学)のオンライン教育プログラムを提供し、厳しい経済環境での就職活動を支援しました。

ミラノ中央駅

もともとイタリアはAI(人工知能)国家戦略を2018年に打ち出し、貧困の拡大や格差といった社会的な長年の課題に立ち向かうためのロードマップを示していましたし、ミラノはICity Rank 2019で6年連続、イタリアの都市の中でもっとも「スマート」な都市に選ばれています。107の州都の中で、社会の堅実性と持続可能なモビリティの分野で1位、社会の質では2位、DXでは3位など、総合1位をミラノが獲得しているのですが、ランキングを見るとイタリアの北半分の方が南半分よりも「スマート」という結果が出ているようです。

 

実際には、デジタル・デバイドと呼ばれる格差は厳然と存在しており、ネット環境のない地域は残っていますし、デバイスが1家族に1台しかない家庭も多いようです。ネット環境があっても低速な回線しか利用できないケースもあり、インフラのさらなる強化はミラノにとって重要な課題です。ミラノが取り組んでいる「マスタープラン2030」には、低酸素技術の採用を増やし、人々のウォーキングや自転車の走行環境を整えるために道路計画を見直すと同時に、デジタルインフラ強化が謳われているとのこと。

 

それでもデジタル敗戦などという言葉がメディアで取り上げられる日本にとっては、ミラノの状況には学ぶべき点が多いかも知れません。

 

 

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