SNSと民俗学

民俗学の研究者は、文献に当たるだけでなく全国津々浦々を足を棒にして歩き回るというイメージがありませんか?

民俗学研究

全国のそれぞれの地域で伝承されている風俗や習慣、伝説、民話、歌謡、生活用具、家屋など有形無形の資料を集めなければなりません。フィールドワークが主体になると思われます。

 

例えば、結婚式やお葬式には、どのようなしきたりがあるのか、そのしきたりにはどういう背景や理由があるのかを調べるためには、その土地に行って大勢の人々から聞き取り調査を行う必要がありそうです。

 

アカデミズムの民俗学とは別に、テレビ局やラジオ局が行う、ちょっと変わった民俗学もありそうです。テレビやラジオは広範囲の人々に届きますし、仮に特定のエリアに限定であっても、視聴者やリスナーの方が引っ越しなどで移動していますから、あなたの故郷ではどうですか?という問いかけを行うと、いろいろな情報を集めることができます。

例えば、東日本では「バカ」といい、西日本では「アホウ」ということが多いとして、その境界線はどこなのか、テレビやラジオの番組は、大学のゼミよりも簡単に調べることができそうです。

民俗学の原点とされる柳田國男「蝸牛考」は、カタツムリのことをそれぞれの土地で何と呼ぶかを調べて、方言がまず京都で生まれて、それが水面に何かを落としたときの波紋のように同心円状に広がっていったことを明らかにした語学書です。こうした方言の広がり方の調査には膨大な手間がかかりそうです。

雛祭

しかし、現在ではラジオ番組やポッドキャストなどで、全国から情報を投稿してもらうことが可能です。二人以上の人がタイミングを合わせる場合に「いっせいの、せ」という地方もあれば、「いっせいの、で」や、「さんのうが、はい」という地方もあります。あなたの地域では、あるいは、あなたの故郷では何といいますか?とラジオやポッドキャストで質問をすれば、たくさんのサンプルが短期間で集まります。

集まった結果をラジオ番組やポッドキャストの番組で取り上げて伝えれば、大勢の興味を引く優良なコンテンツになります。単に質問に答えて「研究者」に情報を一方的に提供するのではなくて、自分の地域の風俗を伝えたのちに、全国の他の地域ではどうなっているのか、自分たちはとても特殊なのか、似たような風俗を持つ地域がどこかにあるのかといった情報を得ることができるのです。

民俗学者がフィールドワークのお礼に論文や専門書を寄贈してくれても、読むのが大変です。ラジオやポッドキャストであればSNSも駆使して、「研究」「調査」結果をビジュアルに知らせてくれて、音声で解説もしてくれます。

古くからの習慣や儀式、建物など有形無形のものがどんどん姿を消している今、デジタルを使って大勢の人々を巻き込んむ新しい民俗学も、急がなくてはならない時期なのかもしれません。