エンタメ業界のデジタル
インターネットの普及が始まったころ、むかしから栄華を極めていたアメリカや日本のテレビ局や映画会社は、ある意味でネットを敵視していたようです。
ネット普及の初期には、音楽も映画やテレビ番組などの映像コンテンツも違法にコピーしたものが違法に多数出回ってしまっていて、有料や無料でやりとりされていました。
ネットは著作権を持っている側からすると違法コピー流通のための悪の市場に見えたことでしょう。映画や音楽などをネット利用者同士でやり取りする際にはP2P(ピア・トゥ・ピア)技術が広く使われていました。
音楽業界はMyspaceを使ってアーティストとファンがつながる事例がいったん急激に増えました。その後、ソーシャルネットワークサービスの多様化によってMyspaceだけではなく、YouTube、Instagram、Twitterのフルに使って、アーティスト本人がファンと直接の交流のパイプを持つようになりました。
今や音楽業界、テレビや映画業界はネットを最大限に活用しようとしています。YouTubeなどにMV(音楽ビデオ)が違法にアップされてしまい無料で再生されてしまうと、著作権を持っている人にはお金が入らずに、違法にアップした人に広告費が支払われてしまうというとんでもない事態が起こってしまいます。
アーティスト本人が公式のチャンネルを開設していても、楽曲をフルで公開してしまうと有料で購入してくれる人が減るという考えで、ダイジェスト版などのみ公開し、フルバージョンは有料とするケースもありますが、最近ではフルで公開して、YouTube無料版でのやや不自由な視聴と、有料版ダウンロードによるリッチな再生環境の差を利用者に意識してもらおうという取り組みも多く見られます。
ファンは歌手やモデル、俳優や作家、映画監督などの日常や仕事の様子をInstagramなどで垣間見ることができ、放送や公開に先立って、情報を少しずつチラ見せし、期待感を煽るだけ煽って、新作の商業的な価値を最大限に引き出すということが一般化しました。
ネットのおかげでオーディエンスのリーチとサイズは世界規模です。日本のアニメ作品は世界中のファンの期待を煽ることが可能です。
作品もアーティストも、フォロワーの価値を十二分に意識しています。パパラッチや芸能記者が有名人のイメージを勝手に作ってしまうことが問題になりますが、ネットであれば本人が情報発信をコントロールすることができます。
情報更新の頻度、フォロワーとの双方向メッセージのやり方、保つべき品位や言葉遣いのルールなど、ファンのエンゲージメント強化のためにエンタメが実施しなければならないこととECサイトやブランドサイトが行うべきことはほとんど同じでしょう。
冒頭、エンタメとネットの関係はもともと良好とは言えなかったと言いましたが、今ではむしろ相乗効果を生むまでに良好な関係になったと言えるのではないでしょうか。
そうなれば、もともとさまざまな創意工夫や企画に長けているエンタメ業界の人々は、ネットの使い方においてもオリジナリティーを発揮しています。
ティザーの作り方や使い方、オンラインイベントの企画や運営、コンテンツのチラ見せ、観客の声の届け方、無料と有料の使い分けなどなど、ECサイトやブランドサイトの側がエンタメ業界から学ぶことはたくさんありそうです。
もちろん、未だに不法なコピーや、加工した著作物がネット上に流通して権利を侵害する事例が後を絶たないことも忘れてはならないと思います。
<参考情報>