エネルギー産業とデジタル
PtX(Power-to-X)というのは、
- Power-to-Gas(水素及び合成メタン)
- Power-to-Liquid(合成ディーゼル、合成ガソリン、合成ケロシン)
- Power to Chemicals(メタノール、プロピレン、アンモニアなどの化学物質)
などを包括的に言う場合の用語だそうです。最初のPower-to-Gasは水の電気分解(水電解)により水素等のガスを製造する技術のことで、一般には再生可能エネルギーを使って発電した電力を使って、まずは水を電気分解し、水素ガスを作ります。これを直接貯蔵したり、他のものに注入して加工するのですが、そのようなことを行う理由の一つが二酸化炭素の削減です。
石炭や原油、天然ガスなど、主に採掘により地中に貯蔵された天然資源を地上に取り出して運搬するという従来のエネルギー産業にも、分析、プロセスのデジタル化、処理の自動化の波が押し寄せているようです。工場を建設する場合には、土地の値段、原料や製品の輸送の便(港湾や空港などからの距離や鉄道、高速道路網へのアクセスなど)、その土地の税制、各種の規制などを勘案して、工場を建設する側が最適な場所を選びます。一方、天然資源の場合は、人間の都合とはお構いなしの場所に眠っているので、採掘可能な場所が極地であろうと、原野の真ん中であろうと、採掘できる場所が採掘現場になります。しかも、需要はグローバルです。そのため、輸送と貯蔵の最適化にはデジタル技術活用の恩恵が十分にあります。各国の市場の情報を集めて価格の変動、需要の変動などを予測し、最善のタイミングで最善の場所に届けることが求められます。
けれども、実際問題としては、天然資源のサプライチェーンは非常に複雑で、地理的には非常に広く、しかも細かく不均質に断片化されていて、いわゆるサードパーティへの依存関係も複雑に入り組んでいるので、簡単にはデジタル化できないという事情があるようです。
先ほど述べたような事情で、エネルギー産業の「現場」は通信やITのインフラが不十分とは言えません。大洋上であれば光ファイバーではなく通信衛星を使う必要がありますから、インターネットVPNを使うとしても利用にかかるコストが高くなり、自由度は低くなります。労働力の点から見ても、不便な場所に長くとどまることを受け入れる人々に高いITスキルを求めることが難しいという課題もありそうです。
けれども、エッジコンピューティングや、ウェアラブル、モバイル機器、IoT、プライベートクラウド、AIなど、世界のDXを牽引している技術はエネルギー産業にもさまざまな影響を与えていると言ってよいのではないでしょうか。
ブロックチェーンやAIを駆使して、必要な場で必要なエネルギーをオンデマンドで利用可能とするEaaS(エネルギー・アズ・ア・サービス)という動きもあるそうです。電力などの生産の最適化、販売管理、消費管理、消費のトラッキングなど複雑な処理が可能となったからこそのトレンドなのでしょう。
<参考情報>